対話体の小説
こんにちは。
ナインです。
本日も本の紹介です。
今回紹介する作品は
『指環』
です。
江戸川乱歩シリーズの第4弾です。
前回の記事の最後でも少し触れたのですが、この作品は『小品二篇』のうちの一つです。
もう一つは前回紹介した『白昼夢』になります。
『指環』は乱歩作品の中では珍しい戯曲のような形式になっています。
しかし、これらの作品が発表された当時、『白昼夢』の方は面白いと好評だったようですが、『指環』はあまり評判が良くなかったそうです。
ネタバレはしていないつもりです。
ではあらすじからどうぞ。
あらすじ
A 失礼ですが、いつかも汽車で御一緒になった様ですね。
B これは御見それ申しました。そういえば、私も思い出しましたよ。やっぱりこの線でしたね。
A あの時は飛んだ御災難でした。
B いや、お言葉で痛み入ります。私もあの時はどうしようかと思いましたよ。
A あなたが、私の隣の席へいらしったのは、あれはK駅を過ぎて間もなくでしたね。あなたは、一袋の蜜柑を、スーツケースと一緒に下げて来られましたね。そしてその蜜柑を私にも勧めて下さいましたっけね。……実を申しますとね。私は、あなたを変に慣れ慣れしい方だと思わないではいられませんでしたよ。
B そうでしょう、私はあの日はほんとうにどうかしていましたよ。
A そうこうしている内に、隣の一等車の方から、興奮した人達がドヤドヤと這入って来ましたね。そして、その内の一人の貴婦人が一緒にやって来た車掌にあなたの方を指して何か囁きましたね。
B あなたはよく覚えていらっしゃる、車掌に「一寸(ちょっと)君、失敬ですが」と云われた時には変な気がしましたよ。よく聞いて見ると、私はその貴婦人のダイヤの指環を掏(す)ったてんですから、驚きましたね。
A でも、あなたの態度は中々お立派でしたよ。「馬鹿な事を云ってはいけない。そりゃ人違いだろう。何なら私の身体を検(しら)べて見るがいい」なんて、一寸あれ丈(だ)けの落着いた台詞は云えないもんですよ。
B おだてるもんじゃありません。
A 車掌なんてものは、ああした事に慣れていると見えて、中々抜目なく検査しましたっけね。貴婦人の旦那という男も、うるさくあなたの身体をおもちゃにしたじゃありませんか。でも、あんなに厳重に検べても、とうとう品物は出ませんでしたね、みんなのあやまり様たらありませんでした。ほんとに痛快でした。
B 疑いがはれても、乗客が皆、妙な目附(めつき)で私の方を見るのには閉口しました。
A 併(しか)し、不思議ですね。とうとうあの指環は出て来なかったというじゃありませんか。どうも、不思議ですね。
B …………
A …………
感想
この作品は確かに話そのものには特筆すべき点もなく、展開も「こうなるのではないか」と予想できるものであるかもしれない。
評判があまりよろしくなかったというのもうなずける。
しかし話だけではなく、執筆形式にも注目するべきである。
『指環』は所謂戯曲のような形式で書かれている。
私は戯曲に造詣が深いわけではない。
せいぜいがシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を読んだ程度である。
そのため私にはこの形式が新鮮なものであった。
話そのものだけに目がいってしまいがちだが、それだけではなく、形式も同時に評価するべきであると私は思う。
おわりに
相変わらずあらすじが長くなってしまいました。
毎回あらすじをもっと書きたいのを抑えて短めにしているつもりなんですけどね……
次回も乱歩シリーズを書くつもりです。
芥川シリーズと同様に、第10弾まで書こうと思っているので、次の第5弾で半分となります。
最後までお読みくださりありがとうございます。
光文社
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