タイトル


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は

 

『妻に失恋した男』

 

です。

江戸川乱歩シリーズ第5弾です。

短編なので読みやすいのではと思います。

「失恋殺人」という名前で映画化されているのですが、話がだいぶ変わっているので別物として見るのが良いと思います。

この作品は推理ものなのでネタバレなしです。

あらすじ

 わたしはそのころ世田谷警察署の刑事でした。自殺したのは管内のS町に住む南田収一(みなみだしゅういち)という三十八才の男です。妙な話ですが、この南田という男は自分の妻に失恋して自殺したのです

「おれは死にたい。それとも、あいつを殺してしまいたい。おい、笑ってくれ。おれは女房のみや子にほれているのだ。ほれてほれてほれぬいているのだ。だが、あいつはおれを少しも愛してくれない。なんでもいうことはきく、ちっとも反抗はしない。だが、これっぽっちもおれを愛してはいないのだ。

 よくいうだろう、天井のフシアナをかぞえるって。あいつがそれなんだよ。『おいっ』と、怒ると、はっとしたように、愛想よくするが、そんなの作りものにすぎない。おれは真からきらわれているんだ。

 じゃあ、ほかに男があるのかというと、その形跡は少しもない。おれは疑い深くなって、ずいぶん注意しているが、そんな様子はみじんもない。生れつき氷のように冷たい女なのか。いや、そうじゃない。おれのほかの愛しうる男を見つけたら、烈(はげ)しい情熱を出せる女だ。あいつは相手をまちがえたのだ。仲人結婚がお互の不幸のもとになったのだ。

 結婚して一年ほどは何も感じなかった。こういうものだと思っていた。二年三年とたつにつれて、だんだんわかってきた。あいつがおれを少しも愛していないことがだよ。不幸なことに、おれの方では逆に、年がたつほど、いよいよ深く、あいつにほれて行ったのだ。そして、半年ほど前から、その不満が我慢できないほど烈しくなってきた。こうもきらわれるものだろうか。だが、いくらきらわれても、おれはあいつを手ばなすことはできない。ほれた相手に代用品なんかあるもんか。ああ、おれはどうすればいいのだ。

 おれは、あいつを殺してやろうと思ったことが、何度あるかしれない。だが、殺してどうなるのだ。相手がいなくなったからって、忘れられるもんじゃない。おれは失恋で死んでしまうだろう。

 しかし、もう一日もこのままじゃ、いられない。あいつが殺せないなら、おれが死ぬほかないじゃないか。おれは死にたい、死にたい、死にたい」

 こんなよまいごとを、直接聞いたわけじゃありません。南田収一が酔ったまぎれに、涙をこぼしながら、わめきちらしたことが、たびたびあったと、南田の親しい友だちから、あとになって聞きこんだのです。その友だちは、こわいろ入りで話してくれましたが、まあこんなふうだったろうと、わたしが想像してお話しするわけですよ。

 ある晩、南田収一は自分の書斎のドアに中からカギをかけて、小型のピストルで自殺してしまいました。わたしはその知らせをうけて、すぐに同僚といっしょに、S町の南田家へかけつけました――。

感想

この作品で最も注目してほしいところはタイトルと冒頭の南田のセリフだ。

 

まずはタイトルであるが、なかなかこのタイトルは思い浮かばない。

私は乱歩の作品の中では『人間椅子』が一番秀逸なタイトルだと思っている。

しかしこの『妻に失恋した男』は、『人間椅子』に次ぐ秀逸なタイトルだと私は思う。

 

次に冒頭の南田のセリフである。

この部分が『妻に失恋した男』の中で一番の見所だと思う。

このセリフを書きたいがためにこの小説を執筆したのではないかと思うほどに、乱歩らしさがでている。

一つに「変態性」だ。

乱歩の作品でよく言われるのが「変態性」である。

前述した『人間椅子』を読んでもらえれば理解できるだろう。

その「変態性」がこのセリフにみられる。

もう一つが「狂気」だ。

これは乱歩の作品の中で、「変態性」と並ぶものだ。

この二つが南田のセリフから読み取ることができ、そして魅力とも呼べるものが詰まっていると言える。

おわりに

江戸川乱歩シリーズも次回で第6弾です。

次は「赤い部屋」について書くつもりです。

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

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