エーゲ海の泥で団子
こんにちは。
ナインです。
本日も本の紹介です。
今回紹介する作品は
『D坂の殺人事件』
です。
江戸川乱歩シリーズ第2弾です。
この作品で初めて「明智小五郎」が登場しました。
このときの明智小五郎はまだ名探偵ではなく、素人探偵のようなものでした。
明智小五郎は今回限りのキャラクターの予定だったようですが、評判が良かったので引き続き登場することとなりました。
ちなみにですが、D坂というのは東京都文京区にある団子坂のことのようです。
今回は推理小説ということなので、極力ネタバレはしてないと思います……
念のためご注意ください。
あらすじ
それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった。私は、D坂の大通りの中程にある、白梅軒(はくばいけん)という、行きつけのカフェで、冷やしコーヒーを啜(すす)っていた。
さて、この白梅軒のあるD坂というのは、以前菊人形の名所だった所で、狭かった通りが、市区改正で取広げられ、何間道路とかいう大通になって間もなくだから、まだ大通の両側に所々空地などもあって、今よりずっと淋しかった時分の話だ。大通を越して白梅軒の丁度真向うに、一軒の古本屋がある。実は私は、先程から、そこの店先を眺めていたのだ。みすぼらしい場末(ばすえ)の古本屋で、別段眺める程の景色でもないのだが、私には一寸(ちょっと)特別の興味があった。というのは、私が近頃この白梅軒で知合になった一人の妙な男があって、名前は明智小五郎というのだが、話をして見ると如何にも変り者で、それで頭がよさ相で、私の惚れ込んだことには、探偵小説好なのだが、その男の幼馴染の女が今ではこの古本屋の女房になっているという事を、この前、彼から聞いていたからだった。
それは兎も角、そうして、私は三十分程も同じ所を見詰めていた。虫が知らすとでも云うのか、何だかこう、傍見をしているすきに何事か起り相で、どうも外へ目を向けられなかったのだ。其時、先程一寸名前の出た明智小五郎が、いつもの荒い棒縞の浴衣を着て、変に肩を振る歩き方で、窓の外を通りかかった。彼は私に気づくと会釈して中へ入って来たが、冷しコーヒーを命じて置いて、私と同じ様に窓の方を向いて、私の隣に腰をかけた。そして、私が一つの所を見詰めているのに気づくと、彼はその私の視線をたどって、同じく向うの古本屋を眺めた。しかも、不思議なことには、彼も亦(また)如何にも興味ありげに、少しも目をそらさないで、その方を凝視し出したのである。
私達は、そうして、申合せた様に同じ場所を眺めながら、色々の無駄話を取交した。
だが、ある瞬間、二人は云い合せた様に、黙り込んで了った。さっきから話しながらも目をそらさないでいた向うの古本屋に、ある面白い事件が発生していたのだ。
私はこれが犯罪事件ででもあって呉れれば面白いと思いながらカフェを出た。明智とても同じ思いに違いなかった。彼も少からず興奮しているのだ。
古本屋はよくある型で、店全体土間になっていて、正面と左右に天井まで届く様な本棚を取付け、その腰の所が本を並べる為の台になっている。そして、正面の本棚の右の方が三尺許りあいていて奥の部屋との通路になり、先に云った一枚の障子が立ててある。
明智と私とは、その畳敷の所まで行って、大声に呼んで見たけれど、何の返事もない。果して誰もいないらしい。
そこで、二人はドカドカ奥の間へ上り込んで行った。明智の手で電燈のスイッチがひねられた。そのとたん、私達は同時に「アッ」と声を立てた。明るくなった部屋の片隅には、女の死骸が横わっているのだ――。
感想
明智小五郎を知っているだろうか?
詳しくは知らなくとも名前くらいは聞いたことがある、という方は多いのではないだろうか。
この作品ではその明智小五郎が初登場するのだが、彼はまだ探偵ではなく、探偵趣味の遊民といったところであった。
そんな彼が今回おきた事件に挑むのだが、私は、「そんな方法で」と思ってしまった。
しかし何を言ってもネタバになりそうなので、是非一度読んでみてほしい。
読めばきっと明智小五郎という人間を好きになるだろう。
おわりに
推理小説ということなので、事件がおきるまでは紹介しようと思ったら、あらすじが大分長くなってしまいました。
感想もネタバレなしで書いつもりです……
次回も江戸川乱歩シリーズの予定です。
次は……『白昼夢』かな
最後までお読みくださりありがとうございます。
光文社
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