個人的にこれが元祖です


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は

 

羅生門

 

です。

前回お伝えした通り、今回は芥川シリーズ第5弾の『羅生門』です。

芥川の作品といえば『羅生門』、という方も多いのではないでしょうか。

私も芥川作品といえば『羅生門』が一番に思い浮かびますね。

 

羅生門』は黒澤明監督の手によって映画化もされており、巨匠黒澤明の名を世界に知らしめるきっかけになった作品でもあります。

 

ちなみにですが、『羅生門』は『古今物語集』の本朝世俗部巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」を基に、巻三十一「太刀帯陣売魚姫語第三十一」の内容を一部に交える形で書かれたものとなっています。

 

今回もネタバレを含んでいますので、お気をつけください。

あらすじ

ある日の暮方の事である。

一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。

広い門の下には、この男のほかに誰もいない。

この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災がつづいて起った。

それが原因で羅生門は荒れ果て、狐狸が棲み、盗人が棲み、とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来ていた。

災のために四五日前に暇を出された下人は、雨やみを待っている、というよりも、雨にふりこめられ、行き所がなくて途方にくれていた。

そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。

どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑(いとま)はない。

しかしあと一歩の勇気が出ずにいた。

とりあえずの目標として、一晩過ごせる場所がないかと目をやると、門の上の楼へと上る梯子が眼についた。

下人はそこで、腰に下げた聖柄の太刀が鞘走らないように気をつけながら、藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた――。

感想

下人の心情の変化について注目していく。

 

物語の最初、下人は「道徳心」を持っていることが以下から読み取れる。

「『盗人になるよりほかに仕方がない』と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。」

 

そして楼内で老婆を見たときは、

「ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。」

「下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて」

のように「恐怖」を感じる。

 

次に老婆の行動を見たときの下人の心情は、

「この老婆に対するはげしい憎悪が、少しづつ動いて来た。」

「あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。」

とあるように、いってしまえば「正義感」に支配される。

しかし下人は現在寝床もままならない状態であり、「正義感」を発揮している場合ではない状況となっている。

加えて、

「さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。」

とあるように、自分の「悪」を棚に上げている。

 

そのため

「下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意思に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。」

と、すぐに別の感情が生まれる。

その感情は、「得意と満足」から「優越感」だと読み取れる。

 

そして老婆の話を聞いていくうちに、

「下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。」

「この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。」

と、ついに「盗人になる勇気」が生まれる。

 

例えばここで老婆を諭したりするならば、たしかに下人は「正義感」がある人間だと言える。

しかし下人が選んだのは、盗人になることであった。

この選択こそ下人の「エゴイズム」の表れと言える。

おわりに

蜘蛛の糸』でもそうでしたが、この作品は「エゴイズム」がメインテーマとなっています。

私の意見ですが、『蜘蛛の糸』ではカンダタの話だけではなく、御釈迦様の御話しもあったので、テーマが「エゴイズム」だけではなかったのですが、『羅生門』では下人の話のみで物語が進んでいくので、よりテーマとしての「エゴイズム」が強調されているなと感じました。

次回は何を書こうかな……

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

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