真実は藪の中


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は

 

『藪の中』

 

です。

芥川シリーズ第9弾です。

基となった作品は『今昔物語集』の巻二十九第二十三話「具妻行丹波国男 於大江山被縛語」です。

芥川はこの作品を最後に王朝物を書かなくなったので、『藪の中』が芥川にとっての最後の王朝物となります。

この作品は、複数の視点から同一の自称を描く内的多元焦点化(ジュネット)の手法がとられています。

とある事件が起こり、その事件の目撃者と当事者が告白するという流れで物語が進んでいきます。

タイトルからわかるとおり、この作品の結末は藪の中です。

「藪の中」という語もこの作品が元となってできました。

今更ですがネタバレありです……

まあタイトルが壮大なネタバレなんですけどね……

あらすじ

藪の中で男の死体が見つかった。

以下は検非違使(今の裁判官と警察官とを兼ねたもの)の尋問への証人たちの証言である。

 

検非違使に問われたる木樵りの物語」

あの死体を見つけたのはわたしです。

あの場には縄と櫛が落ちていました。

太刀も馬も見ていません。

 

検非違使に問われたる旅法師の物語」

事件の前日に男と馬に乗った女を見ました。

その時に太刀と弓矢を持っているのも見ました。

 

検非違使に問われたる放免の物語」

昨夜の初更頃に、名高い盗人を搦め取りました。

盗人の名前は多襄丸です。

馬に乗っており、弓矢を持っていました。

女の行方はわかりません。

 

検非違使に問われたる媼の物語」

あの死体の男は手前の娘の婿です。

都のものではなく、若狭の国府の侍です。

名は金沢の武弘、年は二十六歳でございます。

娘の名前は真砂、年は十九歳です。

娘の行方をどうか……

 

以下は当事者たちの告白である。

 

「多襄丸の白状」

男を殺したのはわたしです。

しかし女の行方は知りません。

女を自分のものとするため、わたしは男と太刀打ちしました。

結果わたしが勝ったのですが、見ると女はもうどこかへ行ってしまっていたのです。

どうかわたしを極刑にしてください。

 

清水寺に来れる女の懺悔」

縛られた夫の側へ行こうとすると、男がわたしを蹴倒しました。

図らずとも夫の側に倒れたわたしは、夫の眼の中に、蔑んだ、冷たい光を見ました。

そこでわたしは気を失ってしまいました。

次に目を覚ますと、あの男はどこかへ行っていました。

夫に恥を見られたことで、もう一緒にいることはできないと思い、わたしは死ぬ覚悟をしました。

わたしはこのまま、夫一人を残すわけにもいかないと、足元に落ちていた小刀を手に取り、夫の胸に刺し通しました。

その後わたしはどうしても死に切れずにこうしている次第なのです……

 

「巫女の口を借りたる死霊の物語」

おれは自殺した。

盗人に言いくるめられた妻は、盗人におれを殺すように促した。

しかし盗人は妻を蹴倒すと、おれに妻を殺すかどうか聞いてきた。

それだけでおれは盗人を赦してやりたい。

妻はおれが返事にためらう内に、たちまち藪の奥へと走り出した。

咄嗟に飛びかかったた盗人は、妻を捕らえることができなかった。

盗人は妻が逃げ去った後、太刀や弓矢を取り上げると、一箇所だけおれの縄を切り、藪の外へと姿を隠した。

おれの前には妻が落した、小刀が一つ光っている。

そしておれはそれを手にとると、一突きに胸へ刺した。

その時誰か忍び足に、おれの側へ来たものがある。

その誰かは見えない手に、そっと胸の小刀を抜いた。

おれはそれぎり永久に、中有の闇へ沈んでしまった。

感想

真実は今でもわかっていない。

『藪の中』は芥川の作品の中でも屈指の論文数を誇るほど議論がなされている。

 

個人的な意見になるのだが、私としては「巫女の口を借りたる死霊の物語」が真実なのではないかと思う。

理由は単純である。

他二つが「白状」と「懺悔」なのに対して、「巫女の口を借りたる死霊の物語」だけ「物語」なのである。

証人の証言もそれぞれ最後に「物語」とある。

もちろんこんなもの、なんの根拠にもなりはしないが……

そのため「巫女の口を借りたる死霊の物語」が真実なのではないかと愚考した。

おわりに

あらすじが長くなってしまったので、感想は短めです。

気が付いたら物語の全容を書いてしまっていました……

感想で書いた意見も個人的なものなので、「ふーん」と流してください。

 

遂にシリーズ第9弾まできました。

次回は記念すべき第10弾の予定です。

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

藪の中 (講談社文庫)
藪の中 (講談社文庫)
posted with amazlet at 18.06.16
芥川 龍之介
講談社
売り上げランキング: 121,716