mystery(?)


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は

 

『変な音』

 

です。

夏目漱石の作品です。

夏目漱石については今更説明するまでもないと思います。

今のところ予定はないのですが、夏目漱石のシリーズを書くかもしれません。

期待しないでお待ちください。

ネタバレあります。

お気をつけください。

あらすじ

うとうとしたと思ううちに眼が覚めた。すると、隣の室で妙な音がする。始めは何の音ともまたどこから来るとも判然(はっきり)した見当がつかなかったが、聞いているうちに、だんだん耳の中へ纏まった観念ができてきた。何でも山葵(わさび)おろしで大根(だいこ)かなにかをごそごそ擦っているに違ない。自分は確にそうだと思った。それにしても今頃何の必要があって、隣りの室で大根おろしを拵(こしら)えているのだか想像がつかない。

 いい忘れたがここは病院である。賄は遥か半町も離れた二階下の台所に行かなければ一人もいない。病室では炊事割烹は無論菓子さえ禁じられている。まして時ならぬ今時分何しに大根おろしを拵えよう。これはきっと別の音が大根おろしのように自分に聞えるのにきまっていると、すぐ心の裡(うち)で覚ったようなものの、さてそれならはたしてどこからどうして出るのだろうと考えるとやッぱり分らない。

 自分は分らないなりにして、もう少し意味のある事に自分の頭を使おうと試みた。けれども一度耳についたこの不可思議な音は、それが続いて自分の鼓膜に訴える限り、妙に神経に祟って、どうしても忘れる訳に行かなかった。あたりは森(しん)として静かである。この棟に不自由な身を託した患者は申し合せたように黙っている。寝ているのか、考えているのか話をするものは一人もない。廊下を歩く看護婦の上草履の音さえ聞えない。その中にこのごしごしと物を擦り減らすような異な響だけが気になった――。

感想

『変な音』はわずか数ページの短編ながら、実によくできたミステリー作品だ。

細かくいうとミステリー作品ではないのだろうが、ここでは気にしないこととする。

 

『変な音』は上・下にわかれている。

上では変な音が聞こえるという疑問が投げかけられる。

下ではその変な音の正体をつきとめ、謎解決といった流れである。

上下それぞれでシンプルな構成ながら、しっかりとミステリーな雰囲気を醸し出しているのは、さすが夏目漱石といったところだろう。

 

『変な音』では「生」と「死」についても考えさせられる。

ミステリーの方に目がいきがちだが、病院という舞台設定に、そこで生きる人たち、そして病気によって亡くなってしまう人たちと元気な人たちとの対比によって示唆されている。

 

以上のように、短編ながらもミステリーや「生」と「死」といった複数のテーマが読み取れる。

ぜひ一度、夏目漱石の世界を体験してはいかがだろうか。

おわりに

このお話は変な音の正体が気になるというものでした。

世にも奇妙な物語」でありそうなお話ですね。

はじめにも書いたように、今のところ夏目漱石のシリーズ化はないので、次回は違う作家の作品を紹介する予定です。

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

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