赤・白・黄色


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は.

 

『チューリップ』

 

です。

新美南吉シリーズ第8弾です。

『チューリップ』は今まで紹介してきた新美の作品とは、少しだけ毛色が違うのではないかと思います。

チューリップ

 学校の帰りに君子さんはお友達のノリ子さんにうちのチューリップの自慢をしました。

「うちで咲いたチューリップは、お花屋さんが売りに来るのより五倍も綺麗なのよ。」

「あら、いいわね。」とお友達のノリ子さんは羨しそうにきいて首をかしげました。

「クレヨンの赤とどっちが赤いかくらべて見たのよ。そしたらクレヨンの赤の方がずっとうすくって汚いの。」

「あらそをを。」

「うちの母さんがいってたわ、この花から口紅がとれやしないだろうかって。」

「そをを。」

「ノリ子ちゃんがあの花寫生なさったら最優等よ、きっと。」

「あら、そんなことありませんわ。」

「昨日球根を埋めたんだけど、まだ二つか三つ残ってたから、母さんにきいてノリ子ちゃんにあげてもいいわ。」

「頂いてもよくって。」

「きっと母さんいいっていうわよ。」

 ちょうどその時ノリ子さんのお家の前に来ました。

「それじゃ明日の朝持って来てあげるわね」といって君子さんはノリ子さんと別れました。家に帰ってお母さんにきくと、あげなさい、と仰言いました。そこで次の朝ノリ子さんを誘いにいく時二つの球根を乾葡萄の空箱に入れて持っていきました。

「ノーリ子ちゃん。」と君子さんは垣根越しに呼びました。するとノリ子さんの代りに、ノリ子さんのお姉さんが、

「はーい」と返事なさいました。あら、と思っているとお姉さんが玄関から出ていらして、

「ノリちゃんはお熱があるので学校へいけませんのよ。」と仰言いました。あまり驚いたので君子さんはチューリップの球根のことも忘れてしまって「そをを」といったきり、何もいわないで学校へ来てしまいました。

 お家に帰ってから君子さんはチューリップの球根を庭のゆすら梅のかげに埋めました。そして春になって花が咲いたらノリ子さんにあげようときめました。

 ノリ子さんはご病気が癒らないらしく、一週間たっても二週間たっても学校へ来ませんでした。そのうちに寒い冬が来て、クリスマスが来てお正月が来て、それからとうとう春がやつて来ました。梢が見えないほど高い欅に、細い芽がちょくちょく顏を出して来ました。

 或日学校の帰りに君子さんがノリ子さんのお家の前を通りかかると、生垣の中で聲がしていましたので、隙間から覗いて見ました。

 庭にはパジャマを着たノリ子さんがお姉さんに手をひかれて、そろりそろり歩いていました。縁側にはお母さんが立って見ていらっしゃいました。

「姉さん、もう一ぺん垣根のとこまでいきましょう。」とノリ子さんがいいました。

「そんなに歩いてもいいの?」と姉さんはあやぶまれました。でも、ノリ子さんがこんなに歩かれるようになったことがうれしくてたまらないらしく、赤ん坊みたいに両手をとってノリ子さんを垣根の方へ歩ませて来られました。

「あら、姉さん、とってもきれいな夕焼ね。」とノリ子さんが立ち止りました。姉さんも空を仰いで、

「本当。」とおっしゃいました。姉さんの美しい眼が涙で光っていることが垣根の蔭で覗いてる君子さんにすぐ解りました。君子さんも何だか泣きたいような気持になりました。

 もう十日もたったらノリ子さん、学校へいかれるかも知れない――と思いながら家へ帰って見ると、ノリ子さんにあげる筈のチューリップの蕾がゆすら梅のかげで綻びかけていました。

おわりに

最後の描写ですが、どう思うでしょうか?

ノリ子さんが元気になるにつれて花が成長していって、回復したと同時に咲くのではないかと思っていました。

ですがチューリップは蕾でした。

新美は何を思ってこのように描写したのでしょうね。

 

次回の新美南吉シリーズの更新も明後日です。

お楽しみにお待ちください。

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

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