センス


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は

 

『芋虫』

 

です。

江戸川乱歩シリーズ第7弾です。

雑誌掲載当時は『悪夢』というタイトルでしたが、後に『芋虫』へと戻されました。

これは、編集者が『芋虫』という題は虫の話みたいで魅力がないから『悪夢』という題に改めてくれないかと言われたからだそうです。

乱歩自身は『悪夢』のほうがよっぽど平凡で魅力がないと思ったそうですが、編集者の意見を尊重してお任せしたそうです。

 

当時は『改造』という雑誌のために書かれたものでありました。

しかし、反戦的な表現や勲章を軽蔑するような表現があったため、編集者が検閲を恐れて娯楽雑誌である『新青年』に回されることになりました。

それにもかかわらず、掲載された本作は伏字だらけでした。

また、乱歩の作品の多くは、戦時中に一部削除を命じられましたが、『芋虫』だけは全編削除を命じられました。

乱歩の作品の中では少し変わった経歴をもつ作品といえます。

感想はネタバレありです。

お気をつけください。

あらすじ

 両手両足、聴覚、味覚といった五感のほとんどを失い、視覚と触覚のみが無事な状態で戦争から帰還した須永中尉。

そんな夫の世話をする妻の時子は須永を虐げることによって快感を得ていた。

当然抵抗などできようはずがない須永は、まるで芋虫のようであり、その醜い姿と己の五体満足な姿とを対比させて、時子の嗜虐心はなおさら高ぶるのであった。

そんなある日、時子が須永のもとへと帰ってくると――。

感想

やはり最初に思ったことは「グロテスク」の一言に尽きるだろう。

ただし、「グロテスク」なだけではなく、同時にある種の美しさも感じた。

 

一番印象に残ったシーンは妻である時子が須永の目をつぶしたところだ。

時子の心の奥の奥にある、夫を本当の生きた屍にしたい、完全な肉独楽にしたい、という欲望が無意識のうちに表出したのだろう。

人間のおもかげを須永の目に感じた時子は、それさえつぶせばあくなき残虐性を真底から満足させることができると思ったのか。

"それが残っていては、何かしら完全でない様な気がしたのだ。"からそういったことが読み取れるのではないだろうか。

 

個人的な感想なのだが、"大きな黄色の芋虫"、"畸形な肉独楽"とは言いえて妙である。

上でも書いたように、『芋虫』が『新青年』に掲載された当時は『悪夢』というタイトルであった。

乱歩自身も『悪夢』のほうが、『芋虫』より平凡で魅力がないと述べているように、私も『芋虫』のほうがよっぽど良いタイトルだと思う。

確かに『悪夢』というのもうなずけるのだが、『芋虫』のほうがより直接的だと思うし、的を射ているだろう。

『悪夢』から『芋虫』に戻ってよかったと思う。

 

この話は時子の視点で進んでいくのだが、これを須永視点で捉えてみるのも面白いかもしれない。

一度でいいから読んでみたいものだが、それは叶わぬ夢である。

おわりに

乱歩自身、「戦争は嫌いだけれども、そういうことを小説で主張する気持ちは少しもなかった」(『江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣(光文社文庫)』より一部抜粋)と語っています。

また、「私の思いついた一種の恐怖を現わす為の手段として、便宜上軍人を使ったまでで、軍人以外に適当なものがあれば、無論それでも差支なかった。」(『江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣(光文社文庫)』より一部抜粋)とも語っていることから、少し違えばこの作品は、掲載雑誌が変わったり全編削除が命じられることはなかったのかもしれませんね。

 

次回も江戸川乱歩シリーズの予定です。

まだどの作品を書こうか決めていませんが、よろしければお読みください。

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)
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