隠された悪意


こんにちは。

ナインです。

本日も本の紹介です。

今回紹介する作品は

 

『赤い部屋』

 

です。

江戸川乱歩シリーズ第6弾です。

『赤い部屋』は乱歩の作品の中では初期のものです。

短編ですぐに読むことができるので是非ご一読ください。

 

今回はネタバレありですのでお気をつけください。

あらすじ

 異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々(わざわざ)其為(そのため)にしつらえた「赤い部屋」の、緋色の天鵞絨(びろうど)で張った深い肘掛椅子に凭(もた)れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待構えていた。

七人の真中には、これも緋色の天鵞絨で覆われた一つの大きな円卓子(まるテーブル)の上に、古風な彫刻のある燭台にさされた、三挺の太い蝋燭がユラユラと幽(かす)かに揺れながら燃えていた。

 部屋の四周には、窓や入口のドアさえ残さないで、天井から床まで、真紅(まっか)な重々しい垂絹(たれぎぬ)が豊かな襞(ひだ)を作って懸けられていた。ロマンチックな蝋燭の光が、その静脈から流れ出したばかりの血の様にも、ドス黒い色をした垂絹の表に、我々七人の異様に大きな影法師を投げていた。そして、その影法師は、蝋燭の焔につれて、幾つかの巨大な昆虫でもあるかの様に、垂絹の襞の曲線の上を、伸びたり縮んだりしながら這い歩いていた。

 やがて、今晩の話手と定められた新入会員のT氏は、腰掛けたままで、じっと蝋燭の火を見つめながら、次の様に話し始めた。私は、陰影の加減で骸骨の様に見える彼の顎が、物を云う度にガクガクと物淋しく合わさる様子を、奇怪なからくり仕掛けの生人形でも見る様な気持で眺めていた。

 

 私は、自分では確かに正気の積りでいますし、人も亦(また)その様に取扱って呉(く)れていますけれど、真実(まったく)正気なのかどうか分りません。狂人かも知れません。それ程でないとしても、何かの精神病者という様なものかも知れません。兎に角、私という人間は、不思議な程この世の中がつまらないのです。生きているという事が、もうもう退屈で退屈で仕様がないのです――。

感想

 "彼がこう種明しをしている間に、今まで彼の助手を勤めた給仕女の気転で階下のスイッチがひねられたのであろう、突如真昼の様な電燈の光が、私達の目を眩惑させた。そして、その白く明るい光線は、忽ちにして、部屋の中に漂っていた、あの夢幻的な空気を一掃してしまった。そこには、曝露された手品の種が、醜いむくろを曝していた。緋色の垂絹にしろ、緋色の絨氈にしろ、同じ卓子掛(テーブルか)けや肘掛椅子、はては、あのよしありげな銀の燭台までが、何とみすぼらしく見えたことよ。「赤い部屋」の中には、どこの隅を探して見ても、最早や、夢も幻も、影さえ止(とど)めていないのだった。"

 

早速の引用で申し訳ないのだが、この引用部分が『赤い部屋』という作品のすべてを物語っていると言っても過言ではないと私は思う。

それは、読了したときに私が感じたものが、まさにこの引用した部分と同じものだからだ。

 

作中に登場する「クラブ」だが、"だからこんなクラブを作って何とかして異常な興奮を求めようとしているのではないか。"ともあるように、「クラブ」の会員たちは現実離れした刺激を求めていると言える。

しかし、最後まで読んでもらえればわかると思うのだが、オチまで読むと、途端に現実に引き戻されてしまう感覚になるのだ。

そして最初に引用した部分は、引き戻された後の感覚について見事に表現しており、作品のすべてを物語っているという言葉の意味を理解していただけるのではないかと思う。

おわりに

次回も江戸川乱歩シリーズです。

次で第7弾になります。

もしかしたら色々と言われることになるかもしれませんが、次回は「芋虫」について書こうと思っています。

 

最後までお読みくださりありがとうございます。

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